神経内科という科名がわかりにくいという声をしばしば耳にします。日本語の「神経」という言葉には心、精神という意味があり、精神科と混同されやすいからでしょう。脳外科というわかりやすい科名を参考にすると、神経内科というより脳内科という方がわかりやすいかもしれません。

 脳内科という言葉からわかるように、神経内科は手術の対象とならない脳疾患を診療します。その対象疾患は脳卒中、パーキンソン病などの中枢神経疾患からギラン・バレー症候群や手根管症候群のような末梢神経疾患、重症筋無力症や多発性筋炎などの筋疾患まで幅広い領域におよびます。レジャーの多極化にともない、チベットなどの高地への旅行、スキューバダイビングなど高圧下でのスポーツも盛んになっていますが、これらのレジャーでおきる病気の中には神経系障害の割合が高く、その診断、治療も神経内科で扱われます。したがって、中枢神経疾患では脳外科、精神科と、末梢神経、筋疾患では整形外科と、レジャーに伴う障害では旅行医学、高圧環境医学などと境界を接しています。

 神経内科で診療される様々な疾患の中で、主な診療対象は、
  (1)脳卒中
  (2)神経変性疾患
  (3)末梢神経疾患
です。前任地のNTT東日本関東病院神経内科では、脳外科と協力し1999年10月1日に周辺病院に先駆けて脳卒中専門治療部門(Stroke Care Unit: SCU)を開設しました。SCUでは脳卒中の疑いのある患者さん全てを24時間体制で受け入れます。また、現在進行中である脳卒中診療体制の整備にも積極的に参加し、全国に先駆けて脳卒中のクリニカルパスを作成し実用化しました。このようにして、毎年100名程度の脳卒中患者さんに対しきめ細かい内科的入院診療を行ってきました。今後は、当院で患者さまが安心して脳卒中の診療を受けられるよう努力して参ります。

 神経変性疾患の代表は、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症などです。私は厚生労働省神経変性疾患に関する研究班の班員業務を経験し、筋萎縮性側索硬化症の臨床研究を専門としています。この領域の研究発表については日本国内では日本神経学会、日本臨床神経生理学会などで講演し、国外では国際神経学会議、アメリカ神経学アカデミーなどで研究成果を発表しています。当院でもこれらの最新の研究結果を速やかに診療に反映させられるよう、今後も自己研鑽に努めて参ります。

 末梢神経疾患には、手足のしびれをおこす頚椎症性神経根症、ギラン・バレー症候群、手根管症候群のような病気が含まれます。このような疾患の治療には正確な電気診断学的検査結果が必要不可欠ですが、我が国ではこの検査を実施することができる医師が極めて限られています。ことに茨城県では、この検査を実施できる専門医は二、三の限られた施設にしか在職していません。私はこれらの検査実施を指導する日本臨床神経生理学会の評議員でありますので、当院でこれらの検査が正確に行われるよう検査体制の充実を図ります。

 神経内科での特殊な内科的治療に、ボツリヌス毒素の注射があります。マスコミ報道によりこの薬は顔の皺とり治療薬として知られるようになりましたが、厚生労働省の認可対象疾患は
  (1)眼瞼痙攣
  (2)一側顔面痙攣
  (3)ジストニア
の3疾患です。これらの疾患に対してボツリヌス毒素の注射治療を行うには専門の研修を受け治療資格を取得する必要がありますが、私はこれらの資格を取得しており2006年2月現在で一側顔面痙攣患者33名、痙性斜頚患者 3名に対してボツリヌス毒素の注射を実施しております。今後、当院でもこの治療が受けられるよう体制整備をして参ります。
(医師 荒崎圭介)