患者さんからの質問
胆石・胆石症


患者さんからの質問


「痛みはないのですが、胆石といわれました。ウルソを服用するとよいと聞きましたが、いかがでしょうか。」しばしば患者さんから出される質問です。
 今回はこの質問に胆汁酸・胆石の世界的に著名な研究者、正田純一先生に答えていただきました。

 胆石症は日常診療の場においてもっともよく遭遇する消化器病の一つです。近年ではその診断、治療に関して目覚ましい進歩が遂げられています。

 胆石とは胆嚢あるいは胆管の胆道内に生じた石のような固形物をさします。胆石は胆汁組成の異常や胆道機能の低下などにより胆汁中の成分が析出、凝結したものです。

 胆石症とは胆石が原因となり、上腹部痛、背部痛、また不定の腹部症状、発熱や黄疸といった症状を生じた場合をいいます。
 ただし胆石をもっている全ての人が症状を訴えるわけではありません。胆石の中には、胆石が発見される以前から現在に至るまで自覚症状が全くない無症状胆石があることを覚えて下さい。無症状胆石の多くは人間ドックや他疾患の精査中に偶然発見されます。通常胆石症患者様の約3人に1人は無症状胆石であると言われております(ご相談を受けました患者様も無症状胆石と考えられます)。
 胆石症の診断、治療方針の決定には症状の有無(有症状、無症状)、存在部位(胆嚢、胆管結石)、胆石の存在様式(遊離、嵌頓結石)、胆石の種類(コレステロール石、色素石)(表・図)、合併症などについて考慮する必要があります。

表 胆石の分類       
1. コレステロール胆石
 a.純コレステロール石
 b.混成石
 c.混合石
2. 色素胆石
 a.黒色石
 b.ビリルビンカルシウム石
3. 稀な胆石
 a.炭酸カルシウム石
 b.脂肪酸カルシウム石
 c.他の混合石
 d.その他
日本消化器病学会胆石症
検討委員会 昭和61年2月
図 胆石の種類
純コレステロール石      混成石         混合石

  黒色石     ビリルビン
             カルシウム石

自覚症状

 胆石症の自覚症状には以下に示すものが重要です。胆石症の症状として上腹部の疝痛、黄疸、発熱が三徴とされています。
@腹痛
 胆石症に見られる特徴的な疼痛は胆石疝痛発作ですが、心窩部や右季肋部に突然に出現することが多い。典型的な胆石疝痛発作は夕食に脂肪食をあるいは過食をした場合に、その後数時間して、多くは夜半に突然激しい心窩部痛が出現し、しだいに右季肋部に移行し、右肩、右肩甲部に放散する。
A黄疸
 胆石症における黄疸は必ずしも多い症状ではありませんが、胆石の胆管への嵌頓による胆汁排泄障害によるもの、胆道感染症の合併による二次的肝障害によるものが考えられます。胆嚢胆石症では通常黄疸を呈することは少ないが、胆石が胆嚢頚部または胆嚢管に嵌頓すると総肝管の不完全閉塞をきたし、炎症も加わり黄疸を呈することがあります(Mirizzi症候群)。

B発熱
 胆石疝痛発作の際の発熱の発生機序は明かではありません。悪寒戦慄、冷汗を伴い一過性の発熱をみることがあります。発熱は胆嚢胆石では稀であり、胆管胆石では約40%にみられます。
身体所見の異常

 胆石症でみられる身体所見の異常には次のようなものがありますが、けっして多いものではありません。
@触診
 
胆石症では胆嚢管や総胆管末端部において胆石の嵌頓を生じると、腫大した胆嚢を触知することがある(Courvoisier徴候)。

A圧痛
 医師が指を右肋骨弓下の肝下縁直下にあてて圧迫しておき、患者に深呼吸させますと、胆嚢の痛みのために十分吸気ができず途中で中断してしまうことがあります(Murphy徴候)。

治療法

 胆石症の治療法としては、従来からの手術療法を中心とするものから、胆嚢温存療法、さらに最近の腹腔鏡下胆嚢摘出術(内視鏡による胆嚢摘出術)までその選択肢が幅広くなってきています。治療の選択にあたっては、患者様の社会的背景、胆石に関する情報(胆石の局在、症状の有無、併症の有無)とその評価、患者様の希望などの点を考慮し、同時に無症状胆石の転帰、胆嚢存在の生理的意義ならびに胆石症の胆嚢温存療法の適応と限界を理解することが重要です。

 本患者様のような無症状胆石は、無症状に経過する例が多いこと、胆嚢癌の合併が少ないこと、有症状化した場合でも手術成績は良好であることなどから基本的には経過観察でよいと考えられています。ウルソデオキシコール酸の服用は必ずしも必要ではないと考えます(ただし本剤の服用により胆嚢上皮の炎症病態が改善し、その結果、胆汁組成が結石形成を起こしにくい状態になる効果、また本剤長期服用により無症状胆石の有症状化が抑制される効果が報告されています)。通常年に1ー2回の経過観察で十分です。注意するべき点は、無症状胆石であっても、充満胆石例で胆嚢壁の評価が十分ではないもの、糖尿病合併例、高齢者で胆嚢壁の肥厚や変形を認めるものは手術療法を考慮したほうが良いでしょう。さらに膵胆管合流異常症、陶器様胆嚢、大胆石(3cm以上)あるいは石灰化胆汁などの合併症例は、胆嚢癌の高危険群であることより手術療法の適応となります。正確に胆石に関する情報とその評価を得ることが重要です。